乳歯の「幹細胞」を再生医療に活用するため、名古屋大に設立された「乳歯幹細胞研究バンク」が15日から稼働する。廃棄物だった乳歯が医療資源になるとあって、全国から提供の問い合わせが相次ぎ、研究グループは「目標より早く検体が集まりそう」と思わぬ反響に驚いている。
 同バンクを設立した名大大学院医学系研究科の上田実教授らのグループは、犬の歯を使った骨再生実験に成功している。バンクでは、永久歯に生え変わる前の 子供の歯である乳歯の歯髄から幹細胞を取り出して培養。保存方法や遺伝子データなどを収集して基礎研究を重ね、ヒトへの応用を目指す。
 当初は、目標にした1万個の乳歯を集めるのに数年かかるとみていた。しかし、昨年12月のバンク設立公表後、全国から「提供するにはどうすればいいか」という問い合わせが100件以上あった。
 乳歯による再生医療は、受精卵からつくる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)で指摘される倫理問題がないうえ、医療バンクでは先輩格の臍帯血(さいたいけ つ)や骨髄と違い、誰もが生え変わりの時に手にする身近さがある。上田教授は「名大病院近くの住民の提供が多いと思っていたが、全国的に反響がある。捨て ていた歯が骨や神経の再生に役立つという分かりやすさがあるのでは」と話す。
 ただ、検体にする乳歯は幹細胞が死滅しないように培養液で保存してバンクに届ける必要がある。培養液は低温なら48時間保存できるが、特殊なもので専門機関にしかない。
 さらに、バンクの研究グループは10人以下で、外来や手術の合間にボランティアでかかわるので、短時間で大量の検体を処理するのは難しい。
 このため、当面は名大病院のほか、グループの研究員が勤務する研究室・歯科医院の計6カ所で乳歯を集中的に集める。バンクの運営が軌道に乗った段階で、遠隔地の一般家庭からでも、培養液に成分が近い牛乳に入れて密閉し、宅配便で送ってもらうことを検討している。
 乳歯は虫歯でないことが条件で、抜ける前からの相談が望ましいという。
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